ふとした瞬間、ご自身の「舌」が口の中のどこにあるか意識したことはありますか?
実は、舌には「正しい位置」というものが存在します。もし、舌先が歯の裏側に触れていたり、舌全体が下がっていたりする場合、それはお口の健康にとって黄色信号かもしれません。
結論から申し上げますと、舌の正しい位置は「上顎(うわあご)の天井部分にピタリと吸い付いている状態」です。
舌の位置が正しくないと、歯並びが悪くなる原因になるだけでなく、口呼吸を誘発し、虫歯や歯周病のリスクを高めることが分かっています。
三重県四日市市の「さかもと歯科医院」が、お口の健康を守るために知っておきたい「舌の正しい位置(スポット)」と、今日からできる対策について分かりやすく解説します。
そもそも舌の正しい位置とはどこなのか
「舌の置き場所に正解なんてあるの?」と驚かれる患者様も少なくありません。しかし、口腔機能を正常に保つために、舌の位置は非常に重要な役割を果たしています。
上顎のスポットに舌先がくっつく状態が正解
医学的に正しい舌の位置の目安となるのが「スポット」と呼ばれる場所です。
スポットの位置は、前歯の裏側から少し喉の奥寄りにいったところにある、歯茎の膨らんだ部分(口蓋皺襞:こうがいすうへき)の手前あたりです。
正しい状態では、舌の先端がこの「スポット」に軽く触れており、かつ上の前歯には触れていない状態になります。もし、舌先が前歯の裏側に常時当たっている場合は、舌の位置が下がっている可能性があります。
舌全体が上顎に吸着していることが重要
舌先だけでなく、舌全体の形も重要です。理想的なのは、舌全体が上顎のドーム状の形に合わせて持ち上がり、天井部分(口蓋)にピタリと吸着している状態です。
この状態が維持されていると、鼻呼吸がしやすくなり、気道がしっかりと確保されます。安静時(食事や会話をしていない時)は、口を閉じて、舌を上顎につけておくのが基本姿勢です。
舌が下がっている状態の低位舌とは
現代人に増えているのが、舌の筋力が低下し、舌全体が口の底(下顎の内側)に落ち込んでしまっている「低位舌(ていいぜつ)」という状態です。
以下の定義で確認してみましょう。
低位舌(ていいぜつ)
- 舌の筋肉が衰え、本来あるべき上顎の位置ではなく、下顎の中にだらりと広がって落ちてしまっている状態のこと。気道を狭くしたり、下顎を押し広げたりする原因となります。
低位舌になると、本来上顎を支えるはずの舌の力が働かず、逆にあらぬ方向へ力がかかってしまうため、次項で解説するように歯並びや顔つきにまで悪影響を及ぼします。
舌の位置が悪いと歯並びが悪くなる原因
「歯並びは遺伝だけで決まる」と思っていませんか? 実は、日々の舌の癖(習癖)が、歯列不正の大きな原因の一つとなっています。
舌の筋肉の圧力と歯列の関係
歯は、「内側からの舌の圧力」と「外側からの唇や頬の圧力」のバランスが取れた位置に並ぶようになっています。
舌の力が強すぎたり、変な方向に力がかかったりすると、この均衡が崩れ、歯が徐々に動いてしまいます。舌の筋肉は非常に強力なため、持続的な力が加わることで歯並びは容易に変化してしまうのです。
出っ歯(上顎前突)や受け口への影響
舌の位置異常によって引き起こされる代表的な歯列不正には以下のようなものがあります。
- 出っ歯(上顎前突):舌先で常に上の前歯を裏側から押し出し続けることで、前歯が前方へ傾いてしまいます。
- 受け口(反対咬合):低位舌により、舌が下顎の前歯を常に押し続けることで、下顎全体が前方へ成長しすぎたり、下の歯が出たりしてしまいます。
前歯が噛み合わない開咬(オープンバイト)のリスク
特に注意が必要なのが「開咬(かいこう)」です。
これは、奥歯は噛み合っているのに、前歯が上下で噛み合わず隙間が空いてしまう状態です。
飲み込むとき(嚥下時)に、舌を上下の歯の間に突き出す癖がある場合によく見られます。前歯で麺類を噛み切れないなどの支障が出るほか、発音にも影響(サ行やタ行が聞き取りにくいなど)が出ることがあります。
矯正治療後の後戻りと舌の癖
せっかく矯正治療できれいな歯並びを手に入れても、舌の悪い癖(舌突出癖など)が治っていなければ、舌の圧力によって再び歯が動き、元の悪い歯並びに戻ってしまう「後戻り」のリスクが高まります。
そのため、矯正治療と並行して、舌のトレーニングを行うことが推奨されています。
低位舌が引き起こす虫歯や歯周病のリスク
舌の位置は、歯並びだけでなく、お口の病気(虫歯・歯周病)のリスクにも直結しています。その最大の要因は「乾燥」です。
口呼吸になりやすく口の中が乾燥する
舌が上顎についていると、口腔内が密閉されて鼻呼吸がしやすくなります。しかし、低位舌の状態だと気道が狭くなるため、呼吸を補うために無意識に口を開けて「口呼吸」になりがちです。
口呼吸が続くと、常にお口の中が外気にさらされ、慢性的に乾燥した状態(ドライマウス)になります。
ドライマウスによる唾液の殺菌作用の低下
唾液には、お口の健康を守るための非常に重要な役割があります。
| 唾液の主な作用 | 働き |
|---|---|
| 自浄作用 | 歯の表面や口の中の汚れを洗い流す |
| 抗菌作用 | 細菌の増殖を抑える |
| 緩衝作用 | 食事で酸性になった口内を中和し、歯が溶けるのを防ぐ |
| 再石灰化作用 | 溶けかかった歯の表面を修復する |
口呼吸によって唾液が蒸発し、お口の中が乾燥すると、これらの防御機能が働かなくなってしまいます。
汚れが流れにくく細菌が繁殖しやすい環境
唾液による自浄作用が低下すると、食べカスやプラーク(歯垢)が歯に停滞しやすくなります。さらに抗菌作用も低下するため、虫歯菌や歯周病菌が爆発的に繁殖しやすい環境となります。
特に睡眠中は唾液の分泌量が減るため、口呼吸で寝ている方は、朝起きたときにお口のネバつきや口臭を強く感じることがあります。これは細菌が増殖しているサインです。
自分は大丈夫?舌の位置と癖のセルフチェック
ご自身の舌が「低位舌」になっていないか、以下のポイントでセルフチェックをしてみましょう。一つでも当てはまる場合は、舌の筋力が低下している可能性があります。
舌の側面がギザギザとした歯型になっている
鏡で舌をベーっと出したとき、舌の側面に波打つようなギザギザの跡がついていませんか?
これは、舌が低い位置にあり、常に下の奥歯に押し付けられている証拠です(舌圧痕といいます)。低位舌の方に非常に多く見られる特徴です。
飲み込み方(嚥下)の際に舌が歯を押している
唾液や飲み物を飲み込む瞬間を意識してみてください。
正しい嚥下では、舌が上顎に吸着し、歯には触れません。もし、飲み込む瞬間に舌が歯をグッと押したり、舌を突き出したり、口の周りに不自然な力(梅干しシワができるなど)が入る場合は、舌の使い方が間違っています。
滑舌が悪いまたは食事中にクチャクチャと音がする
- 滑舌:舌の筋肉がうまく使えないと、サ行、タ行、ラ行などの発音が不明瞭になることがあります。
- 咀嚼音:食事中に「クチャクチャ」と音がするのは、口を閉じて噛めていない、または舌で食べ物をうまく運べていないサインであり、口呼吸や低位舌が疑われます。
口元が締まりにくくフェイスラインがぼやけている
舌の筋肉は首や顎の筋肉とつながっています。低位舌で舌がたるんでいると、顎の下の筋肉も緩み、二重顎になりやすかったり、フェイスラインがぼやけて見えたりすることがあります。
また、口呼吸により口輪筋(口の周りの筋肉)が衰え、口元が常にポカンと開いてしまうこともあります。
舌の正しい位置を身につけるトレーニング方法
下がってしまった舌を正しい位置(スポット)に戻すためには、リハビリテーションのようなトレーニングが必要です。これをMFT(口腔筋機能療法)と呼びます。
歯科医院で行うMFT(口腔筋機能療法)とは
MFT(Oral Myofunctional Therapy)とは、食べる、飲む、話す、呼吸するといったお口の機能を正しく整えるための指導・訓練のことです。
歯科医院では、専門的な知識を持ったスタッフが、患者様一人ひとりのお口の状態に合わせて、舌の持ち上げ方や唇の閉じ方、正しい飲み込み方のトレーニングを指導します。
自宅でできる簡単なあいうべ体操
ご自宅で手軽にできるトレーニングとして有名なのが「あいうべ体操」です。お口周りの筋肉と舌の筋肉を鍛え、鼻呼吸を促す効果が期待できます。
【あいうべ体操のやり方】
次の動作を、できるだけ大きく、大げさに行います。声は出さなくても構いません。
- 「あー」:口を楕円形に大きく開く。
- 「いー」:口を横に大きく広げる。
- 「うー」:唇を尖らせて前に突き出す。
- 「べー」:舌を顎の先まで伸ばすつもりで、あっかんべーと下に突き出す。
これを1セットとし、1日30セットを目安に行うと効果的です。お風呂に入っている時やテレビを見ている時などに行ってみましょう。
※顎関節症など、顎に痛みがある場合は無理をせず、「いー」「うー」だけにするなど調整してください。
普段の生活でスポットを意識する習慣づけ
トレーニングも大切ですが、最も重要なのは「普段の意識」です。
ふと気づいた時に、「今、舌はスポットにあるかな?」と確認し、下がっていたら上顎に吸い付けるように直しましょう。「唇は閉じて、歯は離し、舌は上顎に」が合言葉です(TCH:上下歯列接触癖の改善にもつながります)。
さかもと歯科医院でできる口腔機能の対策
四日市市のさかもと歯科医院では、虫歯や歯周病の治療だけでなく、その原因となる「口腔機能」の改善にも力を入れています。
大人の矯正治療と並行した筋機能の改善
大人の方の矯正治療においても、歯並びを整えるワイヤーやマウスピースによる治療と並行して、舌のトレーニングをご提案することがあります。
「歯並びはきれいになったけれど、口元がなんとなく締まらない」「後戻りが心配」といったお悩みを解消し、機能的にも美しい口元を目指します。
定期検診でのお口の環境チェック
定期検診は、虫歯を見つけるためだけのものではありません。
さかもと歯科医院では、歯周病検査などを通じて、お口の中が乾燥していないか、プラークコントロールが上手くいっているかを確認します。舌の位置が悪く乾燥傾向にある方には、唾液腺マッサージの指導や保湿ケアのアドバイスなども行い、総合的にお口の健康をサポートします。
お口周りの癖や歯並びのお悩みはトリートメントコーディネーターへ相談を
舌の位置や歯並びについて、「先生に直接聞くのは緊張する」「まずは話だけ聞いてみたい」という方もいらっしゃるかと思います。
さかもと歯科医院には、患者様と歯科医師の架け橋となる「トリートメントコーディネーター」が在籍しています。
治療に関する疑問や不安、費用や期間のことなど、カウンセリングルームでゆっくりとお話を伺います。専門的な言葉ではなく、分かりやすい言葉で丁寧にご説明いたしますので、どうぞお気軽にご相談ください。
「舌の位置がおかしいかも?」「子供の口呼吸が気になる」といった日常の些細な疑問から、私たちと一緒に健康な未来をつくっていきましょう。皆様のご来院を心よりお待ちしております。

